ファトの大失敗(大成功?)魔法陣により、七界とも更に異なる世界からこのエスターンへと強制召喚されてしまったノディ、ジャニス、ヤマト。 初めは戸惑いを隠せなかった3人だが、彼らの世界に存在する「アール・ピー・ジー」と言う物に近いと納得したらしく、今や各々驚異の適応能力で一般人に溶け込み元の世界に戻る為の情報を収集していた。 フェインの計らいにより酒場の二階にある宿に滞在する事になって早二週間。 それはつまり、ジャニスがメディに取り返しが付かないレベルで一目惚れしてから二週間という事になる。 「程々の所で振ってあげてよ。付け上がるから」 あんなテンション高い片思いなんて見てて笑えるほど腹立たしいからさぁ、としれっと暴言を吐きながらノディは力を加減して雑巾を絞った。 全身機械のサイボーグであるノディはこの世界では「超古代の天才魔導士に作られたとても人間に近い外見を持つ金属製のゴーレム」と説明することにしていた。 信じられないほどの怪力や何も食べなくて良い理由をいちいち説明するのが面倒だからだ。 よいしょ、と中身が入ったままの食器棚や箪笥を動かして埃のたまった床を拭いていく。 滞在費を稼ぐのも楽ではない。特にノディのような子供の外見では自ずと仕事の幅も狭くなってしまう。 最初こそ意外そうな顔を向けたメディだったが、特に何を言うこともなく、口元に微かに笑みを湛えたままノディの仕事ぶりを聞いている。 大人の余裕だねぇ。床を掃除し終えたノディは元と同じ位置にきっちりと家具を戻した。 「メディさんも、あんなのどこがいいのさ。顔しか取り柄無いじゃん」 「ふふ、でも私はあの方の顔を見たことはありませんよ」 触れさせて頂いたことはあるので、整った顔立ちというのはわかりましたが。と付け足す。 「それが良くわからないんだよね」 濯いだ雑巾を畳む手は止めず、ノディは彼女の伏せられたままの両眼を見た。 見えずとも視線を感じるのか、頬に指を当てて何かを考えていたらしいメディが顔を上げる。 その口元に乗せられていたのは何処か悪戯っぽい微笑みだった。 「私にも良くわからないんです、実は」 「……わからないって『何でジャニスが好きか』が? それとも『好きかどうか』が?」 「両方ですね」 なるほど。 フェインが彼女を指して「夢に生きているような人」という表現がしっくり当て嵌まると同時に、ノディは軽い頭痛を覚えた。 つまり、彼らは似たもの同士だ。 「あー……多分、お似合いだと思う」 「ありがとうございます」 相変わらず笑顔を浮かべているメディの見えない視線を感じながらノディは窓のサッシ拭きに精神を集中させることにした。 |