不思議な夢を見た。

 それは、いつも想いを馳せる、ラドウェアの夢ではなく。
 それどころか、見知ったいかなる土地やいかなる時代の夢でもなく。

 鞭を振るっていた。打たれているのは、少年。まだ子どもとも言っていい年頃だ。
 少年に向かって、"私"は叱責する。

「立て! その様な事で闇の支配を打ち破る事ができると思ってか!」

 叱咤に顔を上げた少年の右目は金、左目は銀。"私"と同じ目をしている。当然だ、それは遺伝子に組み込まれた皇帝の血族の証。
 少年は我が孫だ。手ずから鍛え上げてきた。幼いながらも毅然としたその姿は、成長すればさぞかし美丈夫になるだろうと思われた。

 不意に、振るっていた鞭を取り落とす。

「…クッ、腕が…!」
「爺さん!」

 少年が駆け寄る。右腕を押さえ、床に片膝をつき、"私"は宙を睨む。

「右腕が…疼く…! 混沌≪カオス≫め、ついにわしの存在を見つけおったか…!」
「爺さん! 爺さん、しっかり!」
「良いか、ジャニス。お前は、闇の支配に負けてはならん。運命≪フェイト≫を、我らが永劫の輪廻を断ち切れ。それができるのは、お前、だけ、だ…」

 そう言い残して床に倒れ込み、"私"は、目を閉ざした。


*   *   *


「―――?」

 目を覚まして、夢の内容を反芻(はんすう)する。

 妙な夢、としか言いようがなかった。夢の中の"私"は、何に苦しんでいたのだろう。否、苦痛など何もなかった。かといって、全てを演技と呼ぶには、"私"ののめりこみようは真剣すぎた。
 "私"は―――あの夢の中の老人は、何かひどくおかしな勘違いをする病でも患っていたのだろうか。
 そもそも、なぜこんな、いつの時代ともどこの国とも知れぬ夢を見たのか。一般の人間の見る夢ともまた違う、あれは確かに誰かの――― 一風変わった老人の、記憶。

 メディ・ローシェルレイナーは、ベッドから身を起こした。窓辺に寄り、そっと窓を開ける。夏の夜の空気を吸い込む。それはいつとて、彼女が目を覚ました時の日課だ。
 彼女の両のまぶたは閉ざされ、月明かりを感じることもできない。だがそれだけに、それ以外の感覚は鋭く研ぎ澄まされている。

「―――?」

 もうひとつ、疑問符が彼女の顔に浮かんだ。

 恐らく夜半だろうにも関わらず、外が騒がしい。
 エスターンは港町だ。早朝から賑わい、宵には静まり返る。この時間に目を覚ましている者など、本来ならば数えるほどしかいないはずだった。
 程なくして、メディの耳は悲鳴を聞き取った。

「魔物だ―――!」


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ここは小説の方がわかりやすいので小説モードで。
まとまりなくてすみません。続きます。



by KaL