Radwair Chronicle
"最愛の女王"
〜Our Beloved One〜

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□ 回想 ユハリーエの部屋

   死の床でコウの手を取るユハリーエ。

ユハリーエ「コウ」
ユハリーエ「わたくしはディアーナに、何かを伝えてあげることができたでしょうか……」



□ ユハリーエ墓前

   風に吹かれながら立ち尽くすコウ。時折、枯葉が舞う。

コウ("短命なる龍の血の女王")



□ 光の中

   ユハリーエ立ち姿。ゆっくりと振り向いて微笑。

コウ(ラドウェア王家はその血ゆえに早逝の宿命にあると、私に告げたのはグラシル殿でした)
コウ(もういつ亡くなられてもおかしくはないお歳だ、と)



□ 回想 ラドウェア城裏庭・夜

   ユハリーエの部屋を見上げるコウ。

コウ(その事を知ってからか)
コウ(日ごと夜ごとあなたが愛しく狂おしく)
コウ(命に代えても守るべきただ一人の人と心に刻んだ)

   苦しい顔のコウ。

コウ(その思いは今なお薄れはしない)
コウ(それなのに)



□ ユハリーエ墓前

   遠景。
   墓の前にひざまずくコウ。

コウ(俺はいつ油断したんだろう)
コウ(今日と同じ明日がまた来るものと、いつの間にか思っていた)
コウ(あなたのいた昨日。あなたのいない今日。永遠に続いていく、あなたのいない明日)

   コウ、うつむいて眉を寄せ、目を閉じる。

声 「コウ」

   コウ、顔を上げて振り向く。
   アリエンが木陰に立っている。

コウ「アリエン」
コウ「体はもういいのか?」
アリエン「ええ。大分楽になりました」

   アリエン、コウと並び、墓の前にひざまずく。
   黙祷。
   薄く目を開ける。

アリエン「コウ、私ね。ユハリーエ様だけは好きでした」

   アリエン、顔を上げて、懐かしい顔で微笑。



□ 回想 女王の間

アリエン「(オフ)私が父のことも周りの人のことも、皆、石ころのように見ていた頃」
アリエン「(オフ)ユハリーエ様だけは私に優しく接してくださいました」

   シェードの隣でひざまずく、冷たい目のアリエン。

ユハリーエ「アリエン、顔を上げてくれますか」

   ふわりとアリエンの前にスカートがなびく。
   驚くアリエン。
   ユハリーエが目の前で屈んでいる。
   アリエンに顔を近づけるユハリーエ。

ユハリーエ「アリューシャと歳が近いですね。のちほど紹介しましょう」

   王座横に立っているアリューシャ。

ユハリーエ「きっと仲よくなれますよ」

   戸惑うアリエン、ユハリーエから目を逸らす。
   優しく目を細めるユハリーエ。

ユハリーエ「アリエン。きれいな目をしていますね」
ユハリーエ「とても意志の強い、まっすぐな目」

   再び驚いて、ユハリーエの方を向くアリエン。



□ ユハリーエ墓前

   うつむきがちのアリエン。

アリエン「コウ。あなたと同じ事を、おっしゃったんですよ……」

   コウ、アリエンを見る。

アリエン「私がこうして人並みに誰かと共に生きていられるのは、ユハリーエ様とアリューシャ様のおかげ」

   うなだれるアリエン 横顔。

アリエン「コウ」
アリエン「優しかった人たちは、どうして皆、先に逝ってしまうの……」

   肩を震わせるアリエン。
   顔を上げ、頬を涙が伝う。

アリエン「私は」
アリエン「私は何かひとつでも」
アリエン「恩を……返すことがっ……」

   コウ、アリエンを抱き寄せる。

コウ「アリエン」
コウ「俺がいるよ」
コウ「ここにいる」

   泣き続けるアリエン。
   アリエンの肩を抱き寄せたまま、顔を上げて墓を見るコウ。

コウ(聞こえますか、ユハリーエ様)
コウ(私たちはあなたを愛しています)
コウ(あなたは私たちにとってかけがえのない最愛の女王)

   目を伏せるコウ。

コウ(『死ぬ時はあなたのために死にたい』)
コウ(私の願いはかなわなくなりましたね)

   目を閉じるコウ。

コウ(いや、もうそのようなことは願うまい)
コウ(私には守るべき愛しい妻と子供たちがいる)
コウ(そしてディアーナ様も)

   コウ、ゆっくりと目を開ける。
   自然に口もとに笑みが浮かぶ。

コウ(必ず、守り抜いて見せます)
コウ(それがきっと、あなたの願い)

   コウ、アリエンの肩を抱いたまま立ち上がる。
   一度見つめ合い、墓に目をやる二人。アリエンがコウに寄り添う。
   空を見上げるコウ。
   同じく空を見上げるアリエン。
   枯葉が空を舞う。
   顔をアリエンの方に戻すコウ。

コウ「行こうか」
コウ「あまり風に当たると体によくない」
アリエン「はい…」

   コウ、墓に背を向けて歩き出すが、立ち止まる。

コウ「ああ」

   コウ、アリエンの方へ振り向く。

コウ「アリエン、俺もユハリーエ様と君とに同じ言葉を言われたことがあるよ」

   まばたきし、不審げに首をかしげるアリエン。

アリエン「何と?」
コウ「覚えてるかな」
コウ「『この子の父親になってください』」

   はっとして何か言おうとするアリエン。
   結局言葉が出ずに、口をつぐむ。

コウ「いやぁ、驚いたな、あれは」
コウ「どっちも」
アリエン「それは…」

   コウ、笑う。
   コウ、アリエンに手を差し伸べる。

コウ「帰ろうか」

   アリエン微笑。

アリエン「はい」

   アリエンの手がコウの手に触れる。

コウ(さようなら、私たちの最愛の女王)
コウ(私たちは永遠にあなたを愛し続けるでしょう)

   墓を去っていく二人。遠景。


End.


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