Radwair Chronicle
"求めやまぬ影"
〜I still have Something to Say〜

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□ラドウェア城下

   館の前で、落ち着かなげなコウ。付近の道を行ったり来たりする。
   夕刻の鐘が鳴る。
   意を決して、館のドアに掛けられたベルを鳴らす。



□グラシルの館

   几帳面に整頓された部屋。夕方の陽が斜めに差し込んでいる。

グラシル「よく来たな。座る場所も何も無いが…」
コウ  「いえ、お構いなく」

   グラシルの後について部屋に入ったコウ、側の机に広げられた本と紙束を目にとめる。

コウ  「…これは?」

   椅子にどっかと腰を下ろすグラシル。

グラシル「なに、写本作りだ。昔からわしの趣味でな」
グラシル「仕事を降りてようやく時間が取れた所だ」

   コウ、憂い顔。

コウ  (…そうか)
コウ  (俺はこの人の事を何も知らなかった)

   沈黙。

グラシル「アリエン殿とはうまくやっているか」
コウ  「はい。もうじき二人目が産まれます」

   グラシル眉を寄せる。

グラシル「その子供の事だが」
グラシル「上の子はお前の子では無いと聞いたが?」

   コウ驚く。

コウ  (どこから…?)

コウ  「それは…、…いえ」

   コウ、目を伏せ、目を閉じ、再度目を薄く開ける。

コウ  「やむを得ぬ事情があった事はアリエンから聞いています。それに」

   コウ微笑。

コウ  「愛する人の産んだ子供ですから、大事にする自信はあります」

   グラシル、コウをじっと見つめる。
   やがて、目を閉じ、顔の上半分を手で覆う。

グラシル「お前は、良き父だ」

   コウ、戸惑う。何か言おうとするが言葉が出ない。

グラシル「…どれ」

   グラシル、コウに顔を見せぬまま、立ち上がって窓を向く。

グラシル「少し出かける。…ここまでとしよう」
コウ  「はい」

   コウ、ためらい、背筋を張って顔を上げる。

コウ  「また来ます」
グラシル「来ずとも良い。お前にはお前の責務が有ろう」

   コウ、唇を引き結ぶ。

コウ  「…では、お体にお気をつけて」

   コウ、一礼。

コウ  「失礼します」

   返事をしないグラシルに目をやり、コウ出ていく。
   窓を向いたままのグラシル、涙に濡れた顔。
   口に手を当てて咳き込む。離した手に血の飛沫。

グラシル「シャンクよ」
シャンク「はい」

   物陰からすっと現れるシャンク。

グラシル「これからも、コウを頼む」
シャンク「もちろんです」

   シャンク、微笑。



□コウの家

   椅子に腰掛けてマリルを手で構いながら、どこか心ここにあらずで窓の外を見ているコウ。
   お腹の大きなアリエンが、エプロンで手を拭きながら現れる。

アリエン「どうしました?」
コウ  「ん?」
アリエン「寂しい顔をしておられました」
コウ  「ああ…、うん。少し考え事をしてた」

   コウ、マリルに目を戻し、抱き上げる。
   間。
   アリエンの方に顔を向ける。

コウ  「アリエン」
アリエン「はい?」
コウ  「君の父親は、どんな人だったのかな」
アリエン「父…ですか」

   アリエン、腕を組み、やや首をかしげる。

アリエン「そうですね…とても厳しい人でした。修行ばかりさせられて、よく打(ぶ)たれました」
アリエン「正直、恨みもしましたし、ベルカトールで亜人と戦って亡くなったと聞いた時にも、特に何とも。ただ、今更…何も返すことができなかったことを後悔することもあります」

   コウ、微かに数回うなずく。

コウ  「そうか…。すまない、悪いことを訊いた」
アリエン「いいえ」

   アリエン、コウのそばに寄り、少しもたれかかる。

アリエン「今は、あなたがいてくださいますから…」
コウ  「…アリエン」

   コウ、笑みながらアリエンを抱き寄せてキス。

コウ  (―――また行こう)
コウ  (肝心な一言を聞いてない)

   回想、秋風の中立ち尽くす15歳のコウ。

コウ  (あの時からずっと…)

   再びコウの家、窓の外を見るコウとアリエンの背中、ロングショット。

コウ  「あ、子供の名前なんだが」
コウ  「リート…でいいかな?」
アリエン「ええ。でも女の子だったら?」
コウ  「えっ? あ、あぁ…。その時は君に任せるよ」
アリエン「あなたという人は…」

End.


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