降り注ぐ夢の欠片(かけら)、それは死せる者らの記憶の断片。それらを集めて紡ぐ者、彼女は《夢語りのメディ》―――
◇ ◆ ◇
心地よい音を立てながら、湯気の立つ茶がカップに注がれる。ポットを置いて、彼女は客人に向き直った。
メディ・ローシェルレイナー。美しい顔立ちの女だ。上品な薄い金色の長い髪をゆるい三つ編みにまとめ、左肩から前に垂らしている。肌はそれこそ雪のように白い。惜しむらくは閉ざされた瞼(まぶた)だ。長い睫毛(まつげ)が縁取る青か緑の瞳があれば、宝石のように映えたであろうに。
「今日は、ラドウェア戦役のお話……でしたね」
「うん…」
少年、と呼ぶべきか、青年、と呼ぶべきか。客人はややうつむいて、普段にはない神妙な表情をしている。
「フェイン?」
盲(めし)いていながらも、いや盲いているからこそか、メディは敏感にそれを察した。
「迷っていらっしゃる?」
「あ、いや」
彼は不意を衝(つ)かれたように顔を跳ね上げ、ついで目を伏せた。
「なんか…、聞くの怖いかなとか、思ったりしてさ」
メディは小首をかしげる。
「今までは、そのような事は?」
「今までは…興味かな、純粋に。ラドウェア伝説のホントのこと知りたいって思って」
フェインは天井を仰ぎ、それを透かして遠い夢に想いを馳(は)せるかのように微笑した。
「伝説に出てくる人ってさ、みんな英雄だと思ってた。でも今までのさ、メディ嬢の話でね、近衛長とか魔導師団も結構変な話とかカッコ悪いとこもあったりして、」
微笑の表情のまま、視線をゆっくりと下ろす。
「それでさ……前よりずっと好きになったから、死ぬ話聞くのはつらいかなって」
メディは茶の入った二つのカップを手にしたまま、穏やかに問った。
「やめておきますか?」
「ううん」
フェインは首を横に振る。
「オレはやっぱり吟遊詩人だから、誰も知らない話があるなら聞きたいし、伝えたい」
年相応の好奇心と、ある種の覚悟とに満ちた瞳がきらめく。
「だから聞かせてよ。夢語りのメディのラドウェア戦役」
「…わかりました」
メディはフェインにカップを手渡し、彼と向かい合う椅子にゆったりと腰掛けた。
「時はラドウェア暦七五九年。例年より涼しく過ごしやすいくらいの、ラドウェア最後の夏のことです…」
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