by 玉響 水琴 さん

『我と我が血と我が名において』

 幾人もの怒号や剣戟がぶつかる音など、種々の音が重なり合う喧騒の中に一つの声が響き渡る。
 声の主は最も高い塔の上、それも石を積んだ細く不安定な縁に立っていた。魔導師団の所属を示す衣服をまとった黒髪の男である。目を閉じて両手を広げている彼の身体は光を放っていた。

『分かたれし天より地へ波打つ刃の裁きを与えよ』

 言葉を紡ぐごとに彼の身体を包む光は強くなり、それと共に力が渦巻いて服や髪が翻る。
 その様を城壁から見上げている人物がいた。

「ヴァルト?」

 一人は甲冑を身に着け、剣を手にした背の高い青年。冑の間から青色の長い髪が覗いている。
 いぶかしげに塔の上の男の名を呟いた。
 隣で見上げているのは背の低い童顔の青年。

「詠唱系……」
「"波紋の刃"か」

 彼の疑問を含んだ呟きに答えるように最後に口を開いたのは長い髪の壮年の男だった。
 童顔の青年と壮年の男は共に魔導師団の制服を着用している。

「波紋……何?」

 三人の中で唯一魔導師ではない青年が聞きなれない言葉に聞き返した。

「詠唱系最上級魔法"波紋の刃"」

 壮年の男は求めに応じて説明を付け足して繰り返す。

「あれを唱うるに足る魔力の持ち主は魔導師団にも他におるまい。その威力の程は……」

 そこで言葉を切ると、吐息だけで短く笑った。

「フッ……見れば判ろう」

 その直後に朗々とした声とは打って変わった豪快な掛け声が降ってきた。

「うぉら行ったれやー!!」

 掲げられていた腕が振り下ろされる。それに導かれるよう、男の身体を包んでいた光が一つの大きな球となって地上へと勢いよく落ちていく。
 光の球は城壁の外、敵兵の密集する只中へと落下。地面に触れると同時に光は弾けた。その衝撃で着地点付近にいた人間が吹き飛ぶ。更に波紋状に拡散するその光は、刃のように触れる者を切り刻んだ。
 まさに"波紋の刃"と言えよう。
 光が壁へとぶつかる。

「!」
「わっ」

 光の刃が壁を越えることはなかったが、衝撃は城壁の上にまで伝わってきた。
 魔道師の青年は一歩下がって顔を背ける。甲冑をまとった青年は腕で顔を守りながらも、目を逸らすことなく一部始終を見ていた。
 光と衝撃が収まると、あれほどの喧騒に包まれていたはずの地に静寂が訪れた。
 それも一瞬。
 すぐに城壁内にざわめきが戻ってくる。

「何だ今の」
「魔法?」
「すげぇ!」

 その多くが今の事象への疑問や戸惑い、興奮である。
 二人の青年は壁の間から地上を見下ろした。
 そこに広がっていたのは身体のいずこかを欠損して血を流しながら倒れ伏す人々の群れ。ある者は手足を失い、ある者は胴を真っ二つに、ある者は頭部をなくして、地に横たわっている。

「こっ……」

 凄まじい威力に魔導師の青年は圧倒され息を呑んだ。

「こんな魔法が……」

 一方で甲冑の青年は状況を把握するため、冷静な瞳で惨状とも言える光景を見つめていた。


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