Radwair Chronicle
"しあわせおすそわけ"
〜Sweets with You〜
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「ディアーナ! 走っちゃだめよ!」
 呼びかけられて、ディアーナは急ブレーキで立ち止まった。両手で持った丸い皿の上には、一口サイズに切られた赤い実の小さなタルトがある。
 呼び止めた側は、こちらもまたディアーナとそう変わらない歳と見えた。エプロン姿に、髪をまとめ上げ、仁王立ちしている。
「エリン! 1こあげる、たべてたべて」
 満面の笑顔で皿を突き出すディアーナ。エリンは拍子抜けしたが、一片欠けたタルトを見て、にんまりと笑った。
「うちのパパが作ったんでしょ」
「そう! いちごタルト。すっごくおいしいの」
「あたりまえでしょ。おいしくなかったらわざわざリタから呼ばれて来ないもん」
 言いながら、一切れつまんで口に運ぶ。
「ん。まあまあかな」
 もごもごと口を動かしながら、指をなめる。
「で、そんなにあわてて、どこ行くの?」
「レリィに味見」
「あ、そう。いってらっしゃい」
「うん!」
 力強くうなずいて、ディアーナは走り出した。
「こら! 走っちゃだめって言ってるでしょ!」
 エリンの声が追いかける。
 
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