Radwair Chronicle
"しあわせおすそわけ"
〜Sweets with You〜
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「…泣かれましたか」
「ええ、泣かれてしまいました」
 皿に置かれた最後の一切れを前に、ユハリーエは片手を頬に当てて、困ったように微笑した。近衛長ローウェルは、くすんだ金髪を掻く。
「で、泣きながら置いてったわけですか」
「ええ。明日また作ってもらうからと」
「そりゃ前向きだ。うちの息子なんざ、分けるどころか口もきいちゃくれませんよ」
「あら、難しいお年頃なのでしょう?」
 ユハリーエは皿を持ち上げる。
「ローウェル、よろしかったら半分わけしませんか」
 ローウェルは一瞬止まって、吹き出した。
「子は親の鏡とは言ったもんですな。―――遠慮しますよ、一口を半分にわけたら味も何もわかりゃしません」
「そうですか…」
 残念そうにユハリーエは皿を置く。ローウェルは意味ありげに笑った。
「それに、今いただかなくたって、明日の同じ時間に中庭うろついてりゃ、きっとありつけますから」
 
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