Radwair Chronicle
"降って湧いた災難"
〜Suffer a Calamity〜
  次へ >>
 それを後世の人間が対魔法護符の足がかりとなったとしていかに賞賛しようとも、その時の私にとっては降って湧いた災難でしかなかったのだ。

−  ◇  ◆  ◇  −

 女王の間に通されたエスターンの使者は女王の前に跪(ひざまず)き、手に持った小さな箱を慎重に差し出した。
 箱の外側には丁寧な金細工がしてある。なるほど、金の輸入の盛んなエスターンらしい代物だ。この箱だけでも相当な値がつくだろう。
「ユハリーエ女王陛下に、我が主ブランデルより心を込めて贈り物がございます」
「まあ。何かしら?」
 使者に恭しく差し出された箱を両手で受け取り、女王は優雅に蓋(ふた)を開いた。上品な輝きを放つ、指先大の黒い二つの粒が、ビロードの台座の上に並んでいる。ここぞとばかり使者は胸を張る。
「この黒真珠はエスターンでも滅多に手に入らぬ、大変珍しい品物。一粒が金貨百五十枚に値する品でございます」
 しばし矯(た)めつ眇(すが)めつして―――この行為は後ほど文官長グラシルから『客の前でそのような真似をするものではない』とたしなめられる事になる―――、女王は箱を閉じた。
「どうもありがとう。大変感謝いたしますと、ブランデル殿にお伝えください」
 花の笑み、と後の吟遊詩人は歌う。
 使者が王の間を出ていくのを待って、女王は側近に首を向けた。
「ティグレインはいますか?」

▽ Chronicleインデックスへ戻る ▽ 次へ >>