Radwair Chronicle
"降って湧いた災難"
〜Suffer a Calamity〜
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「それで、それがそうか」
 宵闇の魔導師は今日は上機嫌だ。
「なかなかいい。だが随分豪奢(ごうしゃ)だな。大きすぎる」
「そうでしょうか」
 ユハリーエはたおやかに笑う。彼女の首元を飾るのは、中心に黒真珠をあしらった黄金の首飾り。
「龍だな」
「わかりますか」
 それは頭を下に、尾を上にし、翼を広げた龍を模したもの。見事な細工師のなせる業だ。ティグレインはこれを四日かけて作り上げた。
「あれは繊細な所があるのだ」
 唐突に語ったのはその彼についてだ。咎めるなとのシェードなりのぶっきらぼうに、存じているとユハリーエは笑む。
「こんな素敵なものを作っていただいて、何かお礼をしなくては」
「いらぬだろう」
 それこそ無用の礼の押し付け合いになる。しかし、ティグレインがこの首飾りのためにいくらの金を投じたかを思うと―――それこそが女王への謝罪の念の表れなのだが―――、意地悪く笑いたくもなる。
「なるほど、降って湧いた災難か」
「え?」
「こちらの話だ」
 右目しかない目をシェードは細める。
 その“降って湧いた災難”が、いつしか役に立つこともあるであろう。たとえば、その黒真珠で今度こそ対魔法護符を成功させたならば。
 ティグレイン本人は相当自信をなくしているようだが、“あの男”の弟子だ、二度目はしくじるまい。その二度目を、果たして自分は見ることが叶うだろうか。あの男の弟子であると同時に自分の一番の拾い物であるとも思っている、そのティグレインの成長を、自分は見届けることができるであろうか。否だ。時間がなさすぎる。
 険しい顔のシェードに、横からユハリーエが声をかけた。
「そう、ところで。ティグレインもお茶に誘いたいのですが…」
「休ませておけ」
 苦笑に顔が緩む。だが振った途端にどこに狙いが来るかに気づいてさらに苦笑した。
「ではシェード、ご一緒してくださいませんか?」
「ほう。今週は十一度目か」
「え?」
「こちらの話だ」
 ティグレインの、そしてシェードの災難は当分続くだろう。
 少なくとも、春が終わるまでは。

End.


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