Radwair Chronicle
"降って湧いた災難"
〜Suffer a Calamity〜
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 翌日。
 私は女王との謁見の機会を得た。残されたもう一つの黒真珠の返還を申し出に。
「どうして」
 目を丸くして女王は言った。それを私はまず、失敗した自分への責めと受け取った。むしろ罰を与えられて当然。だが。
「もうひとつ、同じものがあるではありませんか」
 何事もなくにこりと笑う女王に、予測の範囲であったとはいえ、私はめまいを覚えた。
 聞かせてやりたい。一度の失敗が導く二度目の失敗への恐怖を。
「あなたならきっとできます」
「いえ」
 なぜこの女王は、これほど根拠のない事を軽々と口にするのか。憎しみさえ覚える。
「お断り致します」
 形はあくまでも恭しく、残された黒真珠の収められた箱を差し出す。女王はしばし思案していたが、やがて進み出て箱を受け取った。
「それではね、ティグレイン。お願いがあるのです」
 箱を開けて中を確認することもなく、女王は続ける。
「来週、わたくしの誕生日があるのです。この黒真珠も、ブランデル殿が一足早く送ってくださったもの」
 そういえば―――そうだ。春。魔導師団のバンシアン遠征から帰ったきり、自分の仕事にかかりきりだった私には、その春の足音がいつ聞こえたかも定かではない。もしやそれを承知の上で、私に季節を知らしめるために何度も呼び出したのでは。そんな考えが頭をよぎったものの、のほほんとした女王の笑顔を見る限り、それは考えすぎというものであろう。
「それでね。わたくしのために、これで首飾りを作ってくださらないかしら」
 そう言って女王は、手に持ったままの箱を差し出した。
 思考がひとたび止まった。そしてそれが再び動き出すより先に、私は答えていた。
「承知仕(つかまつ)りました」
 ―――他に何と答えようがあるものか。
 
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