"行き着くところ"

即興小説トレーニング:15分
お題:「意外なパラダイス」

「…美味しい」
 桃色の液体を一口含んで、ディアーナは思わずそう漏らした。
「お酒ってもっと美味しくないと思ってた」
「でしょうね、麦酒とかは子ども向けじゃないですから」
「子どもじゃないってば!」
 お忍び家出少女、14歳。それに付き合う羽目になったシャンクは、やれやれと肩をすくめた。それでも、「こんなところ見られたら大変ですよ」とは言わない。彼女を怒らせるのも悲しませるのも本意ではないからだ。
「―――でね…コウがね…」
 半刻を過ぎる頃には、頬を上気させて語っていたディアーナの目がとろんとしていた。酒場のカウンターに半ば伏したような状態だ。飲みすぎたわけではなかろうが、疲れも出たのだろう。
「そろそろ出ますか」
「…うんー…」
 そう言ったままディアーナは動かない。やれやれ、と再度呟いて、シャンクは彼女を背負った。
 城に戻り、部屋へと向かう。すやすやと寝息を立てているディアーナに、衛兵たちもうなずくだけで彼を通した。ベッドに下ろし、毛布をかける。
「…ごめんね」
 ディアーナの声に、シャンクは微笑んだ。
「いいえ」
「お酒の後のお布団って、幸せだね。楽園ってこんな感じかも」
「ですね。でも、その楽園に行くのはたまに、にしてくださいよ」
「うん」
 幸せそうに、ディアーナは寝息を立て始めた。

End.

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