Radwair Cycle
-BALLADRY-
“翼を広げて”
〜a While of Freedom〜
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 震える弦を手の平で止めて、シュトレーゼはゆるやかに語った。
「苦楽を共にした者ほどその絆は強い。そして絆が強い者ほど互いに危うい…」
 竪琴に指を流し、伏せていた目をセトラに移す。
「この後二人がどうなったかご存知ですか?」
 セトラは微かに首を横に振る。
「七百四十九年、ラドウェア戦役」
 あっ、とセトラは小さな声を上げた。
「そう…その戦いの果て、互いを愛するあまりに二人は互いを失った」
 椅子を立ち、シュトレーゼは囁いた。
「お気をつけて。あなたも……あなたの恋人も」
 セトラは、はっとしてシュトレーゼを見やる。まるで人の運命を読み解く力があるかのように、シュトレーゼは静かに笑んだ。
「それでは、よい夢を…」
 詩人が丁寧に頭を下げたその時、窓の外で喧騒が、次いで剣の交わる音が響き渡った。びくりとセトラが反応し、窓を振り向く。
「…どうやら今宵はそうも行かないようですね」
 微笑を残したまま、シュトレーゼは退き、扉を閉ざした。剣戟に胸騒ぎを覚えて、セトラは両開きの窓を開け放つ。
 剣の音が止んだ。闇一色の中庭の隅々まで目を凝らす。
「―――セトラ!」
 決して聞き違えることのない声が、彼女を呼んだ。体が、心が、その声に激しく貫かれ、反射的に声を上げる。
「フォーテ!」
「セトラ、ここだ!」
「フォーテ、フォーテ!」
 セトラが窓から身を乗り出すと、闇から広げられた両の腕が見えた。瞬間、彼女は二階の窓から飛び出していた。
 男―――フォーテは、彼女を抱きとめながら一回転して勢いを殺し、セトラの両足を地につけた。
「走れるか?」
 セトラは強くうなずく。たとえこの身が壊れても、心が壊れるまで走り続ける。
 セトラの手を引いてフォーテは走り出した。城付近の構造などわからない、ただ本能のままに走る。
 追っ手はなかった。複雑な庭を抜け、城の正面出口に近づいても、彼らを取り押さえようとする者はなかった。
「―――よろしいのですか?」
 セトラのいた部屋の前で、シュトレーゼは、いつからともなくそこに立っていたもう一人―――ミアリ第一王子カーナー・ラクスバーンの方を向いた。
「白騎士団長アルフォードはフォーテ・シルファンとは長い付き合いだそうだからね。見逃したとしても無理はない」
「殿下からは、追討命令は?」
「出せんよ。花嫁に逃げられるなど末代までの恥だ」
 そう笑うカーナーは、いつかこうなるとわかっていたかのようだった。
「彼らの旅の無事を祈ろうじゃないか。かつてのラドウェアのシークェインとレリィのようにね」
「それは……皮肉でございますか?」
「なるほど、そうとも聞こえるな」
 目を細めてカーナーは口角をわずかに上げる。
「さて。今夜は眠れそうにない、一曲頼めるかな」
「承知いたしました」
 シュトレーゼは深く一礼した。
 外の闇はすべてを飲み込み、夜は再び静けさを取り戻していた。

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End.


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