Radwair Cycle
-NARRATIVE-
"断髪"
〜Broken Promise〜

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 肩の前に垂れる自らの長い髪を、左手でつかむ。よく研がれた小刀を髪に当て、徐々に力を込める。ぶちぶちと断ち切る手応えが伝わってくる。さらに力を込め、一気に切り放った。
 握りしめた左手を開く。消えゆく夕日に照らされ、金糸が宙を舞った。
 星見の塔の上、ほかに人影はない。シークェインに打(ぶ)たれた頬は痣(あざ)となって腫れ上がり、口の中に血の味を流し続ける。
「コウさん…」
 短くなった一方の髪を手で流し、シャンクは長い睫毛を伏せた。
「約束したじゃないですか…。ボクと…約束したじゃ……ないですか……」
 消え入りそうな声を、夏の風が運んでいく。シャンクは顔を上げて宙を睨みながら、もう一方の髪をつかみ、それもまた小刀で切り捨てた。
 ―――ボクじゃ駄目だったんですか。
 ―――あなたが命を懸けて約束できる相手は、ボクじゃ駄目だったんですか……。
 首の後ろに手を回し、残った髪をまた、切り落とす。落日を浴びながら赤く舞い散る金髪は、さながら炎の閃きと見えた。
 ―――ボクは、あなたを、守りたかった。
 ―――あなたのためなら、いくら汚れても構わなかった。
 人を殺した。賄賂を渡した。体を売っての取引もした。そして度々裏切った。
 ―――そう…汚いことは全部請け負ってきたつもり。
 ―――ばれたら怒られるような事ばかり。
 ―――でもね、
 そっと、目を伏せる。穏やかな笑みが、その唇に浮かんでいた。
 ―――あなたが光の中に居続けることが、ボクの望みでした。
 ―――あなたの陰だけが、ボクの居場所でした。
「あなたをなくしたボクは、もう、生きていけない」
 ひとつひとつ、ぬるい風の中に置き残すように、シャンクは言葉を紡ぐ。
「けど、もう、どうでもいいんだ」
 その瞳が不意に焦点を結んだ。肩の位置で不揃いに切られた髪が揺れる。ゆらり、と殺気が陽炎(かげろう)のように立ち上った。
「コウさんを殺した奴は―――ボクが殺す」

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