"祝福は君だけに"
〜a Present for You, no other〜

クリスマス(現代パラレル)

 日が落ちれば確実に気温零下の世界だ。今年のパーティ会場であったコウの家を出るなり、足下から忍び寄る冷気にシュリアストは身を震わせる。日曜ということで、パーティが始まったのは午後だったが、後片付けを手伝っていたらこの時間だ。
 後ろからディアーナが追いついた。毛玉飾りのついた白いマフラーに、これまた白い毛糸の帽子がよく似合う。シュリアストの隣に並んで歩き出す。
「…部長は来なかったな」
「ティグ? 忙しいものね。それに、『知り合いでも何でもない男の誕生日の何が嬉しいのか』って言ってたよ」
「誕生日? …ああ、キリストか」
 相変わらず回りくどい言い方をする。そう思いはしたものの、この所休日出勤続きの自分を、追い払う様に昼で帰してくれた気遣いは―――いや、それもまた少々回りくどい。
「大体、知り合いの誕生日だって大して嬉しくはないだろう…」
「そう?」
 白い息を吐きながら、ディアーナがシュリアストを見上げる。
「誰かのお誕生日を私が祝えるのは嬉しいよ。だって、出会っていなかったら祝えないもの」
「…それはそうだが」
 出会っていなければ祝えないのは至極当たり前のことであって、だから祝えるのが嬉しい、とつながる回路はシュリアストには見いだせない。ディアーナはどう説明したものか迷っている様子で、手袋に包まれた両手をはたはたと上下に振る。
「私と一緒にいる人が、私と一緒に年を重ねてくれるのは、出会ってくれたから。出会えた人と一緒に、同じ時を刻んで生きていく。…すごく不思議で、素敵だと思う」
 ディアーナの口から出た台詞でなければ鼻で笑って終わったかも知れない。二人きりになると、彼女は不意にこんな眩しくも恥ずかしい言葉を真顔で吐く。無論、ふざけているつもりは微塵もないのだろうし、そこにこそ惹かれるものもあるのだが。
「それで? キリストの誕生日は嬉しいのか?」
 きょとん、と再度彼を見上げてディアーナは目をしばたかせる。面(おもて)を前に向けると、首をかしげ、宙に視線をさまよわせる。
「今生きてる私たちはきっとみんなキリスト様を知ってるから、きっと今日は、生きてる人同士が出会えたことへの、キリスト様からみんなへのお祝いの日、かな」
「…俺からは、」
「え?」
「これを」
 コートのポケットから取り出した小箱を、反射的に差し出されたディアーナの手に落とす。ピンクのリボンのついた白い箱だ。
「え? え?」
「メリー・クリスマス。…じゃあ、また」
 ディアーナの顔を見ないように、点滅する青信号を小走りで渡る。背後から、
「ありがとうーーー! メリークリスマーーース!」
 思わず振り返ると、信号の下でディアーナが大きく手を振っていた。子どもか、と苦笑する。
 箱の中身はネックレス。上品なものを選んだつもりだ。彼女の誕生石を、と思って調べると「ダイヤモンド」との事で途方に暮れたが、「もしくは水晶」という逃げ道に助けられた。
 来年の同じ日には、きっと指輪を。

End.

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