"老いたるを敬う"
〜Old Men's Present〜

敬老の日

 机に置かれた小箱を目にし、魔導長はヴァルトに目線と共に問いを投げた。
「何か?」
「敬老の日」
 にんまりとした笑みが返ってくる。ティグレインは仏頂面を崩すことなく、懐から小さな袋を出して同様に机に置いた。
「ナンですか?」
「敬老の日だ」
 灰色と漆黒の視線が交差する。
「去年の仕返し?」
「仕返しとは如何に。多年にわたり社会に尽くして来た老人を敬愛し、長寿を祝うのがこの日の趣旨では無いか」
「ヒトのコト老人とか言いますかおジイさま」
「おじさまと言って貰おうか」
「どう見てもおジイさまです本当にありがとうございました」
「老人は思慮及び経験に富む点で社会的に重んじられるものゆえ、重要となるのは見た目では無く実際に生きた年月だ。貴殿は、」
「ピッチピチの16歳でーす♪」
「ピチピチは死語だ」
「リバイバルですよ」
「全く、」
「ああ言えばこう言う」
 ヴァルトが先回りして言葉を取ったところで応酬は止まった。ティグレインは苦い顔で、ヴァルトの置いた小箱を手に取る。開けると小さな黒い石が転がり出た。細い紐がついている。首飾りのようだ。
「これは?」
「肩こりに効くヤツ」
「…何処までも年寄り扱いか」
「敬老の日ですからー」
 ヴァルトは口を尖らせながら、ティグレインの置いた袋を手に取る。中から現れたのは小さな黒い瓶。
「コレは?」
「養命酒だ」
「ちょ、どんだけ長生きさせたいの」
「敬老の日なのでな」
 再度、灰色と漆黒の視線が交差する。それぞれの唇に、あるかなしかの笑みが浮かんだ。
「では、お互いの長寿を祝って乾杯でも」
「養命酒で?」
「…お望みとあらば」
 夜が更けていく。二人はまた一日、共に時を重ねる。

End.

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