Radwair Chronicle |
"宵闇の魔導師" 〜the Dark Wizard〜 |
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呼吸を止めていた事にようやく気付いた。 男はひとしきり私の顔を睨(ね)め廻した。私の反応を楽しむように。外観だけではない何かを生の手でじかに触れられているようで、私は身震いした。 恐怖を、覚え始めている。この不気味な男に。 「四十年は、お前にとって長すぎる生だったか?」 目は笑っていない。私の戸惑いをすら凝視するように。 四十余年。長かった。忌(い)まれ、疎(うと)まれ、捨てられ、その繰り返しだ。私の体は歳を取らない。少なくとも、普通の人間のようには。 長かったから、私はここにいる。この男の目の前に。 べったりと濡れた黒と銀の髪を、男は首からなで上げるようにかき上げる。垣間見えた耳の先が、不自然に尖っている事に気付いた。―――この男も"そう"だろう。解かるはずだ。人間の姿をしながら歳を取らない生き物が、どのような扱いを受けるかを。 突如、声を上げて男は笑った。 「長いか。違うな。それはお前が何もしていないからだ」 私の視界の中心に、鎧に包まれた指が突きつけられた。 「いい事を教えてやろう。お前は殺されに来たのではない。甘えようとしたのだ。自らの存在を罪とし贖(あがな)う素振りをして、私に生命を委ねようとしたのが何よりの証拠だ」 指先を見つめながら言われた言葉を反芻(はんすう)し、至極自然に私は呟いた。 「……なるほど」 男は初めて驚きの表情を見せたが、すぐに得意の不遜な笑みを浮かべる。 「では決め直せ。お前の選択に死はない、私が許さん」 許さんなどと、勝手な事を。私の口元がわずかに緩んだ。この男、勝手に過ぎて心地が良い。知ってか知らずか、男は私を指したままに言い放つ。 「選ぶがいい。このまま亜人として生きるか? はたまた人間として歳を取る術(すべ)を探すか?」 私は咄嗟(とっさ)に訊き返した。 「歳を取る術があると?」 「ないわけでもなかろう。魔力を寿命に変える魔道具はあるのだからな。逆のものを作れば良い」 この発言が至極無責任なものであった事を私は後から知るが、この時の私には確かめる術もない。まんまと足を踏み入れた。 「どうすれば作れる」 罠に絡め取られている、という感覚は手に取るようにあった。だがそれを忌まわしいとは思わなかった。私は冷静だ。そして、努めて冷静に振舞っている。その冷静さにほくそ笑みもした。だが体には限界が来ていたのだろう。我に返った時には、男の片手が私の肩を支えていた。倒れかけたのだ。眩暈(めまい)と吐き気に襲われる。吐くものなど何もないだろうに。 男が笑った、ような気配がした。 「食事と宿をくれてやろう、その意気込みに免じてな」 |
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