Radwair Chronicle
"しあわせおすそわけ"
〜Sweets with You〜
<< 前へ   次へ >>
「―――ですからそれは、物理的な問題ではなく、契約そのものに起因するのでは?」
「そうではない、アリエン。契約の際に物的媒介を要するという点に疑問の余地があるというのだ」
「そのような事を疑っては…」
「しかし現に、精霊は物的媒介なしに地上に現れ―――」
 小難しげな理論を、机に置かれたいちごタルトが止めた。
「1こずつ」
  「……殿下、」
  「ディアーナ様、」
「たべて。おいしいの」
 テーブルにあごを乗せて、にっこりと笑う。
 アリエンは確認をとるように相方に視線を送る。気づいているのかいないのか、他方の男は仏頂面で返す。
「ご好意は有難く頂戴いたしますが、殿下、我々は議論…話し合いの途中でありますゆえ」
「休けいもひつようです」
「……殿下、」
 額に手をやる男の横で、くすくすとアリエンが笑った。他の同僚の前では見せない笑みだ。
「ディアーナ様のおっしゃる通りでは? ティグレイン殿」
「結論よりタルトに興味がおありとは、アリエン殿は探求欲より食欲が先んじていると解釈して宜しいか」
「ティグレイン殿が屁理屈とご成婚なさったという噂は本当なのですね」
「随分と古い話だな。とうに倦怠期だ」
 無表情を押し通すティグレインと、わざとらしくため息をつくアリエンを、代わる代わる見やるディアーナ。
「アリエン、たべて?」
「ええ、いただきます」
「ティグも」
「……」
 嫌と言わせぬものがある。観念したティグレインが、指先で一切れつまみ上げる。途端、ディアーナは皿を持ってまたどこかへ走っていった。やや唖然として見送る二人。
「感想は必要なかったと見えるな」
「そのようですね」
「して、アリエン。私の分を食する気はないか。甘味(かんみ)は得手ではない」
「構いませんよ、代わりに私の分をティグレイン殿が食べてくださるなら。さもなくば、ディアーナ様のお気持ちを無駄にしてしまいますから」
「……アリエン。私の愛する屁理屈とやらは、お前と重婚しているようだな」
「とんでもない」
 アリエンは肩をすくめた。
 
<< 前へ ▽ Chronicleインデックスへ戻る ▽ 次へ >>