Radwair Chronicle
"しあわせおすそわけ"
〜Sweets with You〜
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 よく寝ている。
 深さも頻度も共に、よく寝ている。
 抜き足差し足でそーっと近寄り、ディアーナは耳元にささやいた。
「おきなさーい」
 よく寝ている。
「おきてくださーい」
 寝ている。
「おきないとママに言いつけるよ」
え、
 
あ、 何?」
 起き上がった拍子に、抱えていた剣が倒れた。慌てて拾い上げると、目の前に皿が突き出される。ぼやけた焦点で、小さな2切れのタルトが乗っているのがわかった。
「はい、コウにもおすそわけ。おいしいの」
「ディアーナ? ああ…あ? ありがとう、これは、えー…作ったのかな?」
「エリンのパパが作ってくれたの」
「エリン…? ああ、料理長の娘さんの…、…ああ…、じゃあ料理長か」
 コウの頭が正常に回るようになるには、もう少しかかりそうだ。構った様子なく、ディアーナは皿を持ってにこにこしている。
 目をこすりながら急いであくびをかみ殺し、上着のすそで手を拭いて、コウはタルトを一切れ受け取った。
「ありがとう、いただくよ」
「うん、どういたしまして!」
 言うなり、ディアーナはスカートをひるがえして駆け出した。止める間もない。
「…一緒に食べに来たんじゃなかったのか」
 一人残されて、コウは一人ごちる。
 
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