Radwair Chronicle
"薔薇一輪"
〜the Rose in Battlefield〜
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「報告します! リガート西側にエアヴァシー兵一万が陣を敷いています!」
「情報通りだな」
 ベルカトール将官ヴェルードは、側に控える女を見やった。
「ご苦労、レイラ」
「とんでもございません。閣下の御為ならば何なりと」
 鷹揚にうなずき、ヴェルードは腕を組んだ。リガートを手に入れさえすれば、人質を取ってエアヴァシーの開城をうながすことができる。それだけに、エアヴァシー側もほぼ全軍を投入して来たとみえる。
 ベルカトールの戦力は、正規軍七千に傭兵が五千。正面から戦っても何とか勝てる戦力だが、被害は最小限に留めたい。
 ヴェルードは周囲に宣言した。
「デリオーズに伝えよ。日没を待ち、夜のうちに川を渡って迂回する。―――東から攻め込み、リガートを占拠する!」

−  ◇  ◆  ◇  −

 闇の中、ベルカトール兵が次々に川から上がる音だけが断続的に沈黙を破る。
 全員が川から上がり、陣を構えたところで、斥候が走り込んできた。
「報告します! リガート東側にエアヴァシー兵が陣を敷いています!」
 ヴェルードは眉をひそめる。
「数は?」
「およそ一万かと…」
「馬鹿な! それでは西にいたエアヴァシー兵は…」
 その時、後方で声が上がった。
「馬だ! リタの白騎士団だ!」
 どよめきが広がる。ヴェルードは唖然としたが、すぐに自分を取り戻した。
「ありえぬ! リタからここまで何日かかると…」
 だが兵の動揺は、森に放った火のように留まる事を知らなかった。まず傭兵隊が崩れた。隊長デリオーズの叱咤の声もむなしく、馬のひづめの音に追われるように次々に川に飛び込んでいく。
 流れにあらがうように、ヴェルードは声を張り上げる。
「落ち着け! 陣形を立て直せ!」
 しかし今度は別の方向から声が上がった。混乱の間に、エアヴァシー兵が前進して臨戦状態となっていたのだ。
 挟み撃ちだ。もはや餌食(えじき)、と言っても過言ではなかった。

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