「良いことを教えてさしあげましょう。この道を行けば、エアヴァシーという大城砦がございます。その先にある国はリタ、バンシアン、あるいはラドウェア。いずれも正規兵のみで傭兵を用いはしませぬ。貴公には向きますまい。そしていずれも…」 |
なめらかな弁舌の大半は、なめらかにシークェインの聴解力の外側を滑っていった。が、
そこにはすぐさま答えが出た。
一回り大きな声で呼ばれて、露骨に顔をしかめる。相手は構った様子もない。
「貴公ほどの戦士をみすみす左様な国に渡すのは惜しい……」 |
目を細めて舌なめずりをしている、に違いないとシークェインに思わせる、粘ついた声だった。
「どうか引き返してその身をベルカトールに置いてはいただけぬか。クライズ閣下も特別な優遇措置をとられると仰せでございます」 |
別の男が調子よく手をひらひらさせる。
「見張りもだろ」―――そう言い返したかったが単語が出なかった。沈黙が流れる。相手にしてみれば、条件を熟慮していると見えただろう。あと一押しとばかり、先の男が続ける。
「貴公にふさわしい正当な報酬が支払えるのは、我がベルカトールのみ。それは疑いようもありません」
「わからん。簡単に言え」
「金も女も思いのままに」 |
その返答に、シークェインはにやりと笑った。同意の笑みではない。犬歯をむき出した、凶悪な笑いだ。何よりもその目が、笑う時のものではなかった。
ラ イ ラ を 売 っ た 奴 ら と 同 じ だ な ! | 「きさまらは、… !」 | |
途中からシルドアラ語が混ざった。殺気が宙にみなぎり、それに触れた男たちが次々と得物を構える。
自らも剣を抜きながら、シークェインは後ろに目をやった。弟は、七歩よりは多少近い位置にいたが、彼に背中を向けている。いや、敵に正面を向けているのだ。
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