Radwair Chronicle |
"やがて陽の差す方へ" 〜after the "Eclipse"〜 |
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弟の動きは何気なく頭を振る動作に似ていたが、そこに圧倒的な力が働いたのは明白だった。弟の首にかかっていた男の腕が、弾け飛ぶように振り払われた。勢いのままに弟は上体を倒す。 人間の盾をなくした男の顔面に、飛んできた剣先があやまたず打ち当たった。刺さるには至らなかったが、骨は砕けただろう。叫びにならない男の叫びは、しかし、最後まで続かなかった。身を沈めた弟が、男の懐に滑り込む。
腰帯にしては長すぎる白布がひるがえる。体勢を立て直した弟は、一瞬にして男から距離をとった。 シークェインは率直な感嘆の声をもらした。ついで、顔がほころびる。それが自分の勝利であるかのように。 少しはなまっているものと思ったが、払いから投げへの流れるような動きと見事な弧は、記憶に寸分違わない。何をどうやって投げているのかは何度見てもいまだ判らないが、少なくとも自分にできる業ではなかった。 のびている男に大股で近寄り、落ちた剣をおもむろに拾い上げて、残った男達にひと睨みくれてやると、意識のある者たちは皆おとなしく引き下がった。彼らが小言で済むのかこってりと絞られるのか、あるいは追放や手酷い罰を与えられるのかは、シークェインの知ったことではない。もっとも、退いたからには、命を捨てる覚悟で彼に挑む以外に生きる道が残っているのだろう。 残ったのは、彼と、男たちの死体と、死んでいないが意識のない者たちと、弟。 既に息をしずめ、先刻見せた爛々とした光の名残を見せる瞳の他は何事もなかったかのような無表情で立っている弟に、すれ違いざまに声をかけた。
だがいずれにせよ、彼らは一歩ずつ向かっていた。 陽の沈む方へ。そして、彼らの太陽の差す方へ。 |
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