Radwair Cycle -BALLADRY- |
“微かな光” 〜a Ray of Hope〜 |
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シークェインの提案で、今日は宿から少し遠い食堂に向かうことになった。レリィに少しでも空腹を覚えさせることが目的だ。 「疲れたら言えよ」 そう言って、彼にしては少々ゆっくりめに歩く。 ―――どうしてこの人は、今さらこんなに優しいんだろう。 ―――今さら? レリィは立ち止まった。いや、足が勝手に止まったのだ。我知らず目を見開く。 ―――気づいてしまった。 前を歩くシークェインの背中が、徐々に遠くなっていく。 ―――わたしはもうずっと前から、恋人としてのこの人がきらいだったんだ。 「どうした?」 シークェインの広い肩が振り返った。頭一つ分高い彼が、不審げに彼女を見下ろしている。 「レリィ?」 「な…」 レリィは必死に首を振った。 「なんでも、ない…」 「本当か?」 「う、うん…」 シークェインはまた歩き出す。 ―――でも、今なら。 振り向いてくれる今のこの人となら。 駆け足で追いつき、ぎゅっ、とレリィはシークェインの袖を握った。 ―――もう一度、恋できるかもしれない。 不安と希望の綯い交ぜになった心を、レリィは自分の内にはっきりと感じ取った。心臓の鼓動も息苦しさも心地よかった。 その日の昼食も、レリィはほとんど手をつけなかった。シークェインは無理強いを諦めたのか、とがめるでもなく自分の料理を平らげる。 「…あの、」 「ん?」 控えめなレリィの切り出しを、耳ざとく聞き止めた。 「ご…ごめん、せっかく、連れてきてもらったのに……」 「気にするな」 なんだ、そんなことか。シークェインは笑った。 「わるくないな、こういうのも」 「え?」 「女と2人っきりでめし食うなんて、面倒だと思ってたんだけどな」 「…そう」 ふいとレリィは視線を横に流した。 「なら今度から一人で食べてもいいのよ」 立ち上がりかけるレリィ、その腕をつかむシークェイン。 「おまえとならいいって言ってるんだ。座れ」 レリィはしばらく黙し、席につく。だがシークェインとは目を合わせない。怒らせたかと、シークェインは気まずく食堂内を見回す。 「…というか、」 テーブルに戻ったシークェインの目が、空いた皿の上を軽くさまよった。 「好きなんだな、おまえのことが…」 レリィは驚いて目を上げる。シークェインはどこかしらすねたような顔で、テーブルの端に目線を固定している。 「……まあ、いいか。行くぞ」 レリィに目をやらずに、シークェインは席を立った。その背中の広さに、今さらながらレリィは気づく。 鼓動が熱い。飢えにも似たものが、じりじりと胸を焦がす。 ―――あなたなら、わたしを救えるだろうか。 ―――この氷の城から、わたしを。 シークェインが出口で振り返るまで、レリィはその場に立ち尽くしていた。 さらに次の日。 「ま…、」 人ごみの中、開くばかりの距離に、レリィはついに声をあげた。 「待って、シーク!」 「お」 レリィのはるか前を悠々と歩いていたシークェインが振り返る。 「やっと声出したな」 「だっ…」 日はすでに高い。レリィが昼前まで眠っていたためだ。光がまぶしい。指先が冷たい。足元はおぼつかない。冷や汗が額から、背中から、首筋からにじみ出す。身体がしびれる。 「だってシーク、歩くの速い……」 「おまえが遅いんだ」 「だって…だって、」 膝が派手に震えて立っていられない。よろけてそのまま膝をつく。息切れと耳鳴りに襲われ、まぶたが自然に落ちてくる。 「だめ…もう……歩けない……」 往来のど真ん中、シークェインはレリィに歩み寄ってその目の前にしゃがみこむ。 「降参か?」 「降参って…」 レリィの声を、腹の鳴る音がさえぎった。レリィは真っ赤になって自分の腹をおさえる。 「腹減ったか」 涙目でうなずくレリィに、シークェインは満面の笑顔で応じた。 「ここの近くにもうまい店あるんだ。そこまで頑張れ」 レリィの背を叩いて立つよう促すと、そのまま彼女を小脇に抱えるように歩き出した。 |
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