Radwair Cycle -BALLADRY- |
“その願い、 いつかその身を滅ぼさん” 〜a Self-sacrificial Wish〜 |
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赤面に涙目のままで、レリィはテーブルに並べられた料理を黙々と口に運んだ。兎肉の香草焼き、卵の黄身が乗せられたサラダ、焼きたてのパン。 「うまいか?」 尋ねられて、レリィはフォークをくわえたまま、うなずいた。 「ほら、これも食え」 自分の皿のステーキを切り分け、フォークに刺して突き出す。 「肉だ、肉。早く口開けないと汁たれるぞ」 レリィは大きく口を開ける。その口からフォークを抜き取って、シークェインは笑った。 「鳥のヒナにエサやってるみたいだな」 レリィはまた赤くなって、上目遣いにシークェインをにらんだ。シークェインは片肘をつき、穏やかな眼差しでレリィを見ながら、 「やっと、らしくなってきたな」 そう言った。何の事かと動きを止めるレリィ。 「やっと、がんじがらめの巫女じゃなくて、年頃の女らしくなってきた。巫女だ巫女だって言ってるときよりずっといい」 「…………」 確かに、心には今までの重さがない。今まで心の奥で一人苦しんでいた事からわずかなりとも解放され、それがようやく食欲に結びついたのだろう。 うつむいて、レリィはフォークを置いた。 「わたし……巫女でない方がいいの?」 シークェインはやや憮然として応じる。 「どっちだっておまえはおまえだろ。おれが決めることじゃない」 「でもラドウェアの人には、わたしは巫女でなくちゃ……巫女でないわたしなんか……」 レリィのフォークがカタカタと音を立てた。 「今だって…今だって何十人が……わたしのせいで助からなくて……わたしがいないせいで…」 「あほう!」 その音量に、レリィははじかれたように顔を上げた。そこには無表情の、それでいて体中から怒りをにじませるシークェインがいた。怒気がレリィを圧倒しないよう、シークェインは慎重に言葉を押し出す。 「おまえ、贅沢すぎだ」 「贅…沢?」 何を言われたかと、レリィはおうむ返しをする。唇を引き結んで、シークェインは言葉を探している。 「おまえは、そうやって、自分の思い通りに行かないのがいやなんだろう。全員助けてやらなきゃ、気がすまないんだろう。そんなのは、贅沢すぎだ」 「贅沢……」 レリィはもう一度反復する。そして、下唇をかんだ。 「……そうかも、しれなくても…」 戸惑ったように視線をさまよわせたが、レリィは背筋を張った。 「それでも、助けたいの。だって、わたしにはそれができる」 「おまえ…」 いつだったか、謎の疫病がラドウェアを襲った時、眠りもせず毎日何十人もの治療を続けていたレリィの姿が思い起こされた。結局シークェインが無理矢理に館に戻して休ませたのだが。 「おまえは他人ばっかり助けて、自分が助かろうって気はないのか」 「…………」 目をぱちくりさせるレリィ。考えたこともないという風だった。シークェインはあきれて、テーブルに片肘をついて吐息した。 「おまえは戦場でまっさきに死ぬタイプだな」 その目が急に真剣になる。 「おまえがなんでもかんでも自分のせいにするからつらいんだぞ。もっと周りを見ろ。ちょっとぐらい助けを求めろ」 フォークをくるりと回して、レリィに突きつける。 「今度なにかあったら、黙ってないでおれに言え。絶対助けてやる。いいな」 これほど真摯なシークェインの顔を見たことがあっただろうか。青い眼光に、レリィは動きを奪われる。 「返事しろ」 「…………」 ぎこちなくレリィはうなずいた。シークェインの唇が、にっと笑う。 「約束だぞ」 「…シーク…」 「ん?」 ―――ありがとう。でも…… あなたはきっと気づいてくれない。リガートでの夜明け前の雨が思い起こされる。 「…なんでもない」 「なんだおまえ、またなんか隠してるだろ」 「ううん。ごちそうさま」 半量になった食事を残して、レリィは席を立った。 「おい、」 合わせてシークェインも立ち上がる。 「一人で歩くなよ。おれから離れるな。…おまえ、聞いてるか?」 |
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