Radwair Cycle -BALLADRY- |
“ひとときの安らぎ” 〜a Rest〜 |
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レリィとそれに追いついたシークェインが表通りに出ると、日は中天を少し過ぎたところだった。ベルカトールを東西に貫く大路は、行き交う商人と売り子の呼び声でごった返している。 「そこらの店入るか」 シークェインは宝飾店を指した。レリィはまごつく。 「え…。そういうのなら、ティグに作ってもらえば…」 「見るだけだ、見るだけ」 レリィの手を引いて中に入る。 薄暗い店内は、宝飾類がよりきらびやかに見えるよう、魔光灯を照らしていた。闇に浮かび上がる様々な色。さながら夢の世界に迷い込んだようだ。 「これなんか似合うんじゃないか?」 見本台の中から、宝石で蝶をかたどった髪飾りを店員に出させてレリィの髪にさす。腕を組んでしばらく見定めてから、抜いてまた別のをさす。 「やっぱり銀だな」 「…シーク…」 「ん?」 ―――なんか、わたしより楽しそうなんだけど。 傍目に見てもその通りなのだが、これがいいあれがいいと鏡を見せられるごとに、レリィも少しずつそれに慣れてきたようだった。 「これ…が一番好きかな…」 「よし、じゃあそれ買うか」 「えっ」 「あんなちっさいのがなんであんなに高いんだ」 唇をとがらせてシークェインはひとりごちた。金貨20枚だという。手持ちの金で買えなかった。 すっかり自分の歩調になった彼を、レリィは小走りで追っている。 「だから、ティグに作ってもらえば…」 「それじゃおれがおまえにやることにならないだろ」 「シ、シークにはもう服買ってもらったから、充分だから…」 不意に振り向いて、シークェインは顔を輝かせた。 「もう一着買うか」 ようやく追いついたレリィは、肩で息をしながら、この際、この男のペースにとことん付き合う覚悟を決めた。 その結果が。 「……悪かった」 部屋に戻るなり倒れるように寝台に突っ伏したレリィに、シークェインはばつが悪そうに言った。 「おまえ体力ないのすっかり忘れてた」 「…………」 「…楽しくなかったか?」 「わかんない……」 「おれは楽しかったな」 自分の寝台に腰掛けるシークェイン。しばらく思案にふけっていたが、思い出したようにレリィに声をかけた。 「そっち行っていいか」 「うん…、あ、待って」 レリィはおもむろに起き上がり、カーディガンとワンピースを脱ぎ始めた。 「おまえ、」 「…………」 下着姿になったレリィは、脱いだ服を丁寧にたたみ床に置くと、上目遣いにちらりとシークェインを見てから寝台に戻る。 シークェインは上着とズボンを脱ぎ捨て、レリィの隣に入るなり、彼女の細い体を抱きしめた。レリィの手がおずおずと彼の背中に回る。 「久しぶりだな、こうやって一緒に寝るの」 「うん…」 下着を通して彼のぬくもりを感じながら、レリィはふと言い知れぬ不安に襲われた。 「シーク」 「ん?」 「わたしを……離さないで」 ―――『どこへ行ってしまうかわからないから』。少なくともシークェインにはそう聞こえた。 「わたしを…つかまえていて。いやがっても暴れても、逃がさないでつかまえていて」 「…ああ」 応えながら、彼はレリィが震えているのに気づいた。背に回す手にぎゅっと力を込める。 「わかってる。どこにも行かせない」 長い髪をなでる彼の手は大きく優しい。 ―――ああ、今日はこのまま眠れる……。 まぶたを閉じると、一日の疲れが出たか、レリィはまもなく眠りに落ちていった。 |
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